東京高等裁判所 平成4年(ラ)953号 決定 1993年11月05日
抗告人
中村ソノ
右代理人弁護士
梅澤幸二郎
相手方
吉元みよ
右代理人弁護士
山崎陽久
主文
原決定を取り消す。
相手方の借地権譲渡許可申立を棄却する。
手続の費用は、第一、二審共、相手方の負担とする。
理由
第一当事者の求めた裁判
一抗告人
主文のとおり。
二相手方
1 本件抗告を棄却する。
2 抗告の費用は、抗告人の負担とする。
第二当事者の主張
次のとおり付加するほか、原決定の理由第一記載のとおりである。
(抗告人の当審における主張)
相手方が譲渡しようとしている本件建物は、建築後五〇年以上を経過して老朽化し、平成二年半ばからは空き家となっており、現在は誰も住んでいない。そして、建物全体が朽廃している。したがって、本件借地権は消滅しているので、借地権譲渡許可の要件を欠くものである。
第三当裁判所の判断
一本件建物の朽廃の状況について
証拠(<書証番号略>)によれば、本件建物について、次の事実を認めることができる。
1 本件建物の敷地である本件土地の賃貸借契約は、相手方が本件建物を取得した昭和四七年に抗告人と相手方との間で結ばれたもので、平成四年九月一九日約定の二〇年の賃借期間が満了した。
2 本件建物は、建築後五七年を経過し、平成二年半ばから空き家で利用されておらず、通常の維持修繕もなされず放置された状態にある。
3 日本瓦で葺かれた屋根の大棟の中央が沈下し、全体にゆがみがあり、一部の瓦は欠損したり、はがれたりしている。そして屋根全体に瓦のずれがあり、瓦を支える葺土、野地板、ルーフィングの老朽化、腐朽化が激しい。このため、建物全体が雨漏りし、各部屋の天井、内壁のベニヤ板のはがれ、腐朽、畳の腐り、壁のひび、はがれなど、腐朽破損が進行している。そして、六畳間の場合は、天井に穴があき、空が見える状態であり、畳は、腐って液状化している。
4 外壁のトタンが腐食、腐朽しはがれており、一部の戸袋は腐朽してもげそうになっている。雨戸の建て付け、ガラス戸の開閉は固く悪い。
5 基礎が浅いところが多く、土台の一部は、完全に腐食し、残りも腐食が入り始めている。床の一部は、根太、床板が損傷して、弱くなっている。柱には傾斜がみられる。
6 現在は、住居として利用することは不可能であり、住居として利用するには屋根、土台、天井、壁、建具などの大規模な修繕が必要である。しかし、多額の経費をかけて修繕しても、居住、利用の快適性は劣り、経済的にも引き合わない。そして、このまま推移すると、一ないし三年以内に、社会通念上建物としての効用を滅失する状態に至るものと予想される。
二譲渡許可の可否について
右に認定したところによれば、本件建物はすでに朽廃に近い状態にあって、今後短期間のうちに朽廃の状態に到達し、本件土地の賃借権もこれに伴い消滅する可能性が高いものと認められる。このように借地権が今後短期間のうちに消滅する可能性が高い場合には、借地人が建物の修繕その他の改築をしようとしても、賃貸人がこれを承諾しない可能性が高く、その場合に裁判所がその承諾に代わる許可の裁判をすることが適当でない場合が多いから、このような建物及び借地権を譲り受けても、譲受人は結局その建物を利用することができず、買い受けの目的を達成することができない可能性が大きい。このように、売買の目的を達成することが困難な事情があるにもかかわらず、借地権の譲渡を許可するのは、借地をめぐる紛争の予防を目的として制定された借地権譲渡許可の制度の趣旨に合致しないものといわねばならない。
したがって、本件の借地権譲渡許可の申立は、これを許可するのが相当でなく棄却すべきものである。そこで、結論を異にする原決定を取り消し、相手方の申立を棄却することとする。
よって、主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官佐藤繁 裁判官淺生重機 裁判官杉山正士)